冷蔵倉庫の中に管理温度の違うもうひとつの空間を創出。間仕切りカーテンで実現したお客様に応じた徹底した温度管理。
写真左から、丸和運輸機関 沖森 大輔様、イノベックス 中根 章伍さん
温度管理の厳しさが求められる食品物流の中でも、精肉は特に繊細な商材です。
管理温度はわずか1〜2℃の範囲。ほんの少しの変化でも色の変化や品質劣化が起こり、クレームにつながるリスクがあります。
株式会社丸和運輸機関様(以下、丸和運輸機関)の青梅食品物流センターでは、こうした精肉の温度管理を、日配商品と同じ冷蔵倉庫内で実現するという難しい課題に直面していました。
新たな冷蔵倉庫の増設は難しく、限られた空間の中で環境を分ける必要があったため、選ばれたのが「間仕切りカーテン」による空間の分離という方法です。
導入されたのは、株式会社イノベックス(以下、イノベックス)の糸入り間仕切りカーテン。
限られたスペースの中で異なる温度帯を安定して維持するため、現場に即した設計・素材選定・施工の工夫が施されました。短納期での対応や現場ごとの課題に応じた柔軟な提案も、導入を後押ししました。
今回は、精肉対応に向けたプロジェクトの背景から施工後の変化までを、丸和運輸機関 青梅食品物流センター長の沖森様と、提案から施工までを担当した株式会社イノベックス中根さんに伺いました。
目次 |
ーまず、丸和運輸様の事業と青梅センターの位置づけについて教えてください。
沖森様
当センターは「食品物流」「EC物流」「ドラッグストア物流」の3つを中核事業とし、それぞれに専門性を持った体制で運営しています。なかでも食品物流は、温度帯の細分化や品質管理の厳格さなど、他の事業とは違った難しさがあります。
この分野において、私たちは単に「運ぶ」だけでなく、「どれだけ品質を維持したまま届けられるか」という視点で、日々の業務を設計しています。今後はさらに、食品分野での知見を活かして、新たなお客様との接点を増やしていくことが事業方針として掲げられています。青梅食品物流センターは、そうした食品分野の対応力を強化するうえで、重要な役割を担っている拠点です。
また、社内で「労働環境改善部」が新たに立ち上がったという動きもあります。物流現場は、どうしても温度や重機の使用など、身体的な負荷がかかりやすい環境ですが、そうした課題に真正面から向き合い、モデルケースをつくるのがこのセンターのミッションでもあります。
たとえば、フォークリフト作業における動線の整備、熱中症対策としての作業ペースの見直し、冷蔵倉庫内での適切な休憩時間の確保など、単なる効率性だけでなく、働きやすさや安全性まで含めて設計していく。青梅センターは、全社の先陣を切る拠点として、その役割を担っています。
沖森 大輔さん/株式会社丸和運輸機関 青梅食品物流センター長
ーそんな中、食品における「精肉」の取り扱いが新たに加わったと伺いました。
沖森様
はい。これまではヨーグルトや納豆といった日配商品を中心に、5〜7℃程度の温度帯で管理してきました。そんな中、あるスーパーマーケットのお客様から「精肉を取り扱ってほしい」というご依頼をいただいたんです。
精肉の品質に対するご要望は、日配商品※1と比較して厳しいものでした。納品する際の状態はもちろん、庫内保管中の温度管理や、特に赤身部分の発色には、お客様から細かいチェックが入ります。
精肉は、ほんのわずかな温度の変化でも赤身が黒ずんだり、色が鈍くなったりするんですね。そうなると「品質が悪い」と判断されてしまい、最悪の場合、お客様に商品をお届けすることができなくなります。加えて、お客様と築いてきた信頼関係に大きな影響を与えてしまいます。
精肉という商品はそれまで当センターで扱った経験がなく、温度管理の許容幅も極端に狭い。
そんな中で「品質は絶対に落とさない。そのために現場でどう環境を整えるか。」
そこに一番エネルギーを使いましたし、今回のイノベックスへの相談はまさにその解決に向けた取り組みでした。
※1 日配商品:毎日スーパーなどに配送される冷蔵が必要な加工食品のことで、畜肉、水産、乳製品などが主な対象。
ー精肉対応にあたって、どのような制約がありましたか?
沖森様
先ほども申した通り、精肉と日配では管理する温度帯がまったく違います。日配商品は5〜7℃が標準ですが、精肉は1〜2℃の温度帯で管理する必要があります。ですが、大きな制約として、スペースの問題を抱えていました。
理想を言えば、日配専用の冷蔵倉庫と、精肉専用の冷蔵倉庫を別に設けるのが一番良かったんですが、現実的にはそれができなかった。建物の構造上、増設する余地がまったくなくて、「今ある日配の冷蔵倉庫の中で、どうやって環境を分けるか」を考えるしかなかったんです。
そこでたどり着いたのが、冷蔵倉庫内に新たに冷風機を増設し、1〜2℃の温度帯のエリアをつくるというアイデアです。ただ、それだけでは冷気が広がってしまうので、空間を仕切る必要がある。そこで、「間仕切りを使って冷気を閉じ込める」という発想に至ったんです。
要は、ひとつの冷蔵倉庫の中に、1〜2℃の精肉専用エリアと5〜7℃の日配エリアを共存させる。そのために、冷風機と間仕切りという複合的なアプローチを取る必要がありました。
ただ、冷蔵倉庫の中というのは、実は単純な箱ではなく、柱や梁があって構造が複雑なんですよ。しかも、人の出入りやフォークリフトの通行もある。そこに仕切りを入れるとなると、動線や作業効率に支障が出ない工夫が必要でした。
ー間仕切りを取り扱うイノベックスには、どのような経緯で相談をされましたか?
沖森様
イノベックスは、他のセンターでも間仕切りの導入実績があったんです。そこで名前が挙がったのがイノベックスでした。かつての上司から「イノベックスは対応力もあるし、品質がしっかりしている会社」と聞き、すぐに相談させていただきました。
とはいえ、私自身もこうした精肉管理のための冷蔵倉庫の改修は初めての経験でしたし、しかも今回は単純な間仕切り設置ではなく、冷風機の追加と合わせて、温度管理の精度も求められる難易度の高い案件でした。正直「本当にこの方法で品質を管理できるのか?」という不安はありました。
でも、実際にイノベックスからいただいた提案や、やりとりを通じて、その不安は徐々に解消されていきました。現場の状況に合った形で、すごく具体的な提案を示してくれたので、信頼して進めることができたんです。
沖森様
冷蔵倉庫の構造が複雑だったので、まずはその対応策から話を始めました。
イノベックスは、梁や配管の位置、動線の重なりなどを現場で細かく確認した上で、設置方法だけでなく、使用する製品そのものの選定についてもかなり具体的に提案してくれました。
中根さん
精肉の温度帯をしっかり保つには、冷気を逃がさないことが最優先でした。そのため、今回は厚手の糸入りカーテンをご提案しました。厚みのある素材で断熱性を確保し、さらにカーテン内に糸が織り込まれていることで、冷気や湿度による劣化のリスクを抑え、耐久性を高めています。
また、冷気が漏れるポイントになりやすいのが、レールとの接点です。
そこで、レールとカーテンの間にできる微細な隙間を塞ぐ専用カーテンを設け、二重構造にして気密性を高めました。これは冷蔵倉庫のような低温環境で特に有効です。
さらに、カーテンを吊るすための金具についても、通常はスチールを使うところをステンレス製にしています。錆びにくく、食品を扱う現場での衛生面にも配慮した素材です。
沖森様
こうした提案をもらえたことで、「現場の使いやすさと品質を維持するための仕様になっている」と納得できました。施工方法だけでなく、使う部材の細部まで現場目線で考えてくれているのが伝わってきましたね。
また、こちらとしては初めての改修ということもあり、完成イメージがなかなか持てずにいたのですが、中根さんからいただいたラフスケッチを見て、「ああ、こういう形で空間を分けられるのか」と明確に理解できたのを覚えています。納得しながらプロジェクトを進めることができ、安心感がありました。
ーイノベックスは、間仕切りについてどのような実績や専門性があるのでしょうか?
中根さん
弊社は2001年に、高藤化成という会社を吸収合併しました。高藤化成は、日本で間仕切りをいち早く手がけたパイオニア的な存在で、その会社が持っていた技術者、ノウハウ、製造機器を引き継いでいます。
現在では、年間で300件以上の間仕切りの導入実績があります。食品や医薬、物流、製造業など、さまざまな業種の現場に対応しており、それぞれの環境に合わせた形で設計をカスタマイズしています。
特に温度管理が厳しい食品倉庫のような現場では、温度帯の分離、冷気漏れ対策、動線確保、衛生管理など、複数の要件を同時に満たす必要があります。既製品を当てはめるのではなく、現場の条件を踏まえたうえで、納得いただける形に落とし込むことが求められます。
弊社がその対応を可能にしているのは、こうした沿革と、長年蓄積してきた現場対応の経験があるからです。製品を単に売るのではなく、その現場で本当に意味のある形にして納める。
それが、イノベックスの間仕切り事業の根本にある考え方です。お客様から「ちゃんと考えてくれる会社だ」と思っていただけることが、何よりの評価だと思っています。
沖森様
はい。精肉の取り扱いを始めるにあたり、お客様から「すぐに稼働できる体制を整えてほしい」という強い要望がありました。期間としては、約2週間。私たち自身も相当タイトなスケジュールであると認識しつつ、イノベックスにお願いしていました。
また本来であれば、社内の稟議フローにも1ヶ月近くかかるケースも多く、通常の進め方では到底間に合いませんでした。ただ、お客様との信頼関係もありますし、納品開始日をずらすわけにはいかなかった。無理を承知で、2週間で仕上げる前提でプロジェクトを動かすことにしたんです。
中根さん
スピード感が必要な状況だということは、沖森様からご相談をいただいた時に把握していたので、仕様を決めた後はすぐに稟議用の資料と概算見積もりをご用意しました。
施工についても、通常の手順だと製作から設置まで少なくとも3週間程度はかかりますが、社内外の製造スケジュールを調整し、部材の手配も即時対応で進行しました。このスピード感で進められた理由として、協力先の加工会社や施工会社とのネットワークの豊富さがあると思います。今回のようなスピードが求められる案件でも、現場に合った業者を即座に選定・手配できたのがポイントになりました。信頼できる施工会社と連携しているからこそ、今回のような納期に対応できたと思います。
また、冷蔵倉庫内という特性上、フォークリフトの往来がある時間を避ける必要があり、作業時間に制限がある中での施工となりました。そのため、時間を無駄にしないよう、段取りを細かく詰めて、1日の中でも効率的に作業を進める工夫をしています。
沖森様
スケジュールが詰まっていたにも関わらず、本当に2週間で無事に施工が完了したときは、正直ほっとしました。稟議のための資料を早急に揃えてくれたので、社内の承認もスムーズに進みました。
そのおかげで予定していた日にしっかりと物流を立ち上げられたことが何よりの成果でした。
現場としても「間に合ってよかった」という達成感がありましたし、イノベックスには感謝しています。
ー実際に導入された後、イノベックスの間仕切りにどのような印象をお持ちですか?
沖森様
導入してから現在まで、およそ3年が経過しますが、精肉に関する品質クレームは一件も発生していません。精肉の取り扱いは非常に繊細で、温度帯は1〜2℃に保たれていなければなりません。
たとえば搬出入のタイミングや、冷気の流れが滞っただけでも、赤身の変色が起こることがあります。その結果、納品物の返品や弁償につながるケースも想定されるため、現場としては神経を使う領域でした。
今回導入した間仕切りカーテンによって、冷蔵倉庫内で精肉と日配商品を物理的に分けることができ、それぞれのエリアで適正な温度帯の維持が安定的に行えるようになりました。
冷風の流れが分断されることで、しっかりとエリアごとに必要な温度環境が確保でき、これがクレームゼロの継続にもつながっていると考えています。
また、他センターでは別メーカーの間仕切りを使用していて、カーテンレールに不具合が発生したという話を聞いたこともありました。
その点、今回の製品ではこれまで使用していて一度もそうした不具合は起きていません。動作の安定性や素材の劣化も見られず、耐久性についても十分に満足しています。
丸和運輸様冷蔵倉庫内に設置された、イノベックス製の間仕切りカーテン(糸入り)
ー冷蔵倉庫における品質管理の状況を、お客様にチェックされる機会はありますか?
沖森様
はい。実際に取引先のお客様をご案内して、冷蔵倉庫内の温度管理体制についてご説明することがあります。特に、精肉を扱うお客様は品質への要求が非常に高いため、納品先の管理体制を事前に確認したいというご要望をいただくことも少なくありません。
そういった際には、実際の庫内をご覧いただきながら、「ここが精肉エリアで、こちらが日配商品エリアです。それぞれを間仕切りで物理的に分け、温度帯も分離しています」と具体的にご説明します。空間が明確に区切られている状態を目で見て確認いただくことで、「なるほど、これなら大丈夫ですね」とその場で納得いただけるケースが多いです。
やはり言葉だけでは伝わりにくい部分もありますが、実際の設備環境をそのままお見せできるというのは大きな安心材料になります。また、見せることができる現場というのは、品質管理に自信を持っている証拠でもあると考えています。
営業としても、現場としても、「ちゃんと見せられる品質管理」を構築できているのは非常に強い武器です。お客様の信頼にもつながりますし、今後の取引の継続や拡大にもプラスに働いていると実感していますね。
ーどのような会社にイノベックスの間仕切りカーテンをお勧めできますか?
沖森様
今回のように、限られたスペースの中で異なる温度帯の商品を管理しなければならない現場は、食品物流に限らず多くあると思います。
「新たに冷蔵倉庫を建てる余裕がない、でも品質は落とせない。」
そうした課題を持つ会社にとって、間仕切りによる空間の分割という発想は、非常に実用的な選択肢になると思います。
イノベックスの製品は、構造や素材の品質も高く、劣化や不具合がないことからも、長く安心して使える製品だと感じています。現場ごとに合わせて設計・提案してくれる柔軟さもあり、施工後も「本当にうちの環境に合っている」と思える仕上がりでした。
私たちの青梅センターでは、これまでに2度、イノベックスに施工をお願いしています。現場の状況を理解したうえで話ができる関係性が築けており、今後も必要があればまず相談したいパートナーです。
また、今回の事例は社内でも共有しており、丸和運輸機関の他の拠点でも活用の可能性を検討しているところです。食品分野を中心に、今後ますます現場の品質要求が高まるなかで、間仕切りの導入が有効な手段として広がっていくことを期待しています。
中根さん
私たちとしても、青梅センター様との取り組みは非常に印象深い案件でした。冷蔵倉庫内という制約の多い環境で、施工から運用までを短い期間で実現できたことに、価値を提供できたのではないかと考えています。
現場ごとに課題や条件は異なりますが、設計から施工までのプロセスをきちんと組み立てれば、どんな空間でも機能的に分割できると考えています。
これからも、品質管理やスペース活用に悩む企業様の課題に対して、現場目線で寄り添える提案を続けていきたいと思います。
写真左から、イノベックス中根さん、丸和運輸機関 沖森様