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「半信半疑」からエネルギー収支ゼロの実現。 倉沢建設が見つけた地中熱の真価

作成者: イノベックス公式|Dec 10, 2024 2:35:00 AM

「半信半疑」からエネルギー収支ゼロの実現。
倉沢建設が見つけた地中熱の真価

写真左から、イノベックス 福宮さん、倉沢建設 倉沢社長

 

SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資の動きが進む中で、地球環境への配慮がますます求められる現代、企業にはCO2排出量削減や省エネルギー対策が求められています。倉沢建設株式会社様(以下、倉沢建設)は、こうした課題に直面する企業に対するソリューションを検討する中で、エネルギー効率の高い空調設備を求められていました。

イノベックスの地中熱システム「サーチェス®」を導入することで、電力会社に余剰電力を売るほどに、高い省エネ性能を実現しました。加えて、きれいな空気で直接風が当たらない、質の高い空調環境をつくり上げました。

先端技術である地中熱空調システム「サーチェス®」を導入するまでのプロセスや、結果として得られた成果について、倉沢建設 倉沢社長と、システム開発者である株式会社イノベックス 福宮さんに、お話を伺いました。


 

目次
  1.  エネルギー消費量の収支ゼロを実現する建築『ZEB』
  2.  国内事例が少ない地中熱技術に対し、イノベックスの高度な知識に驚き
  3.  補助金の活用で、イニシャルコストを削減
  4.  施工における機器選定・システム設計はイノベックスがワンストップ対応
  5.  「綺麗、静か、直接当たらない」空間の質が上がる地中熱の空調
  6.  おわりに

 

エネルギー消費量の収支ゼロを実現する建築『ZEB』

 

ーまず、倉沢建設の事業内容について教えてください。

倉沢社長

倉沢建設は、昭和64年創業の埼玉県川越市の一級建築士事務所です。主に工場や倉庫、商業施設などの企業施設の設計から施工、メンテナンスまでを一貫して提供しています。お客様は、上場企業や中堅規模の製造業が多いですね。

近年、環境に配慮した施設の設計に関して、多くのお客様からお問い合わせいただくことが増えています。そこで、当社の設計・施工技術と、イノベックスの地中熱空調システム「サーチェス®」により、エネルギー消費量の収支ゼロを実現する建築『ZEB』(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現し、環境建築の分野で新たな事業を立ち上げました

ZEBには4つのランクがありますが、当社は最高ランクである完全な『ZEB』の認定を SII(一般財団法人 環境共創イニシアチブ)から取得しています。これは施設において、年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの状態です。当社のモデルビルは、余剰電力を電力会社に売ることで、コストではなく売り上げが上がる仕組みになっています。


倉沢 延寿さん/株式会社倉沢建設 代表取締役社長

ー環境配慮型の建築需要が高まっているのですね。その背景について教えていただけますか?


倉沢社長

国が力を入れて取り組んでいる脱炭素経営の推進や、ESG投資の高まりなど、社会規模で省エネ対策が進む中で、各企業にとっても環境への取り組みは避けて通れない課題となっています。サプライチェーン全体でCO2排出削減を求められるケースなど、建物のエネルギー効率の改善が、競争力の向上にも直結すると感じられている企業が多いと思います。

具体的なお客様として、大型工場や倉庫を持つ企業の施設・設備管理者、総務部のお客様から、環境配慮の対策についてお問い合わせをいただいています。また、中小企業の場合、環境配慮や労働環境向上に興味関心が高い経営者の方からお問い合わせをいただくことが多いですね。

福宮さん
省エネルギーといった環境への配慮に加え、従業員の労働環境に対しても意識が強く向けられている時代です。真夏の猛暑が年々厳しくなる日本では、熱や臭気が発生しやすい大空間の工場や倉庫でも、効率的に室温管理できる空調を求めるお客様も多いと感じています。


福宮健司さん/株式会社イノベックス執行役員 ジオサーマルトランスフォメーション事業部長

国内事例が少ない地中熱技術に対し、イノベックスの高度な知識に驚き
 
ー地中熱の空調は、まだまだ社会に浸透していない技術だと思いますが、倉沢社長が地中熱技術や、イノベックスを知ったきっかけについて教えてください。


倉沢社長

事業内容でお話しした通り、私たちは新たな事業を立ち上げるべく、トップランクの『ZEB』認定を目指していました。当社の技術と既存の空調設備で、ランクが一つ下のNearly ZEBまでは達成していましたが、完全なゼロエネルギー化を実現するには、もうひとつブースターとなる技術が必要でした

そんな折、経済産業省が主体でやっている中小企業の経営相談窓口「よろず支援拠点」から、エネルギーのエキスパートとして、埼玉県産業振興公社の小笠原先生を紹介いただきました。その小笠原先生から、地中熱空調システムの提案を受けました。

福宮さん
小笠原先生は埼玉県の外郭団体である産業振興公社に所属しており、中小企業の技術支援や発展を支える役割を担っています。ご自身も工学博士でありながら、一級建築士としてスーパーゼネコンでも長年の経験を積まれた方です。技術者としての視点と実践的なアプローチを兼ね備えていて、中小企業にとっては頼れる存在と言えるでしょう。

さらに、地中熱の利用技術の研究・開発にも深く携わっており、この分野では国内でも指折りのエキスパートです。イノベックスも地中熱空調システムの開発に取り組んできた経緯がありますが、そうした点からも、小笠原先生が地中熱の可能性を評価し、倉沢建設様に我々を紹介してくださったのだと思います。

こうした中立的かつ信頼できる技術者からの推薦は、地中熱空調システムの導入を検討される企業にとって大きな安心材料になっていると思いますね

 

ー提案を受けた時、最初から地中熱技術を導入しようと決められたのですか?


倉沢社長

いや、最初は正直かなり半信半疑でした(笑)。地中熱自体は教科書には載っている技術ですが、実際に現場で見聞きすることが少なく、抽象的な概念としての理解で留まっていました。

また、地中熱空調システムの導入については、空調の省エネ効果が思うように得られないといった失敗例が同業者内で噂されており、実際に導入して成果が出るのかどうか、懐疑的な面がありました。さらに、「地中熱空調システムは初期コストが高く、期待した効果が得られにくい」という否定的な意見も耳にしていたため、導入の判断には慎重にならざるを得ませんでした


ー地中熱技術に対する不安は、どのように払拭されましたか?

倉沢社長

地中熱空調システムの専門家である福宮さんから技術的な詳細を聞きました。最も納得したのは、地中熱空調システムが環境負荷を大幅に軽減し、真夏や真冬でも空気熱源のように効率が落ちないという点です。

例えば、空気熱源では外気温が極端な状況になると性能が著しく低下しますが、地中熱空調システムではそういった影響を受けません。この安定性が、私たちのような工場や商業施設を設計・運用するうえで非常に大きなメリットになると感じたのです。

また、イノベックスさんは、地中熱空調システムの技術に関する非常に深い知識だけでなく、何よりその信念と情熱に心を動かされました。特に福宮さんの「この技術をただ提供するのではなく、倉沢建設さんと一緒に事業をつくり上げたい」という姿勢には強く感銘を受けましたね。

福宮さん
ありがとうございます。やはり地中熱の利用は、まだまだ日本には浸透していないですし、地中熱空調システムの製品も様々なレベルのものがあります。こうしたお客様が持つ不安感に対して、私たちは詳細なシミュレーションや技術的なメリットについて丁寧に説明することを心がけています。特に地中熱を活用することで得られる省エネ効果の具体的な数値を示し、信頼性をお伝えしました。

当社が提供する技術は、単なる設備やシステムの導入に留まるものではありません私たちが目指しているのは、お客様とともに新しい価値を創造することです。地中熱の利用はまだ国内での事例が少なく、普及のハードルも高い技術です。

しかし、だからこそ「この技術を活かしてどんな未来を創れるか」を倉沢社長と共有し、実現に向けて伴走する姿勢を大切にしました。


単なる空調設備の導入だけでなく、コストメリットを事業目線でお話しされながらプロジェクトを進められていたのですね。地中熱空調システムの導入による具体的な数値や効果について教えていただけますか?


福宮さん

地中熱を活用したヒートポンプを導入することで、一般的な空気熱源ヒートポンプと比較して最大30~40%の電力削減が可能です。また、夏場や冬場の極端な気温でも冷暖房効率が維持されるため、施設全体に十分なエネルギーを効率よく供給することができます。

今回のプロジェクトでは、倉沢建設様とともに空気の流れをデザインし、建築の構造も工夫しました。これにより、空調の熱エネルギーが「一筆書き」で建物全体を循環するため、空気の流れが穏やかになり、冷暖房のムラが解消されるという特徴を作り出すことができました

 

倉沢社長

また、福宮さんの説明は非常に具体的で、地中熱の原理や他の再生可能エネルギーとの違いについても非常に分かりやすかったです。

例えば、空気熱源が夏場や冬場の温度変化に弱いのに対して、地中熱は年間を通じて安定した地中温度を利用するため、極端な気温にも影響されにくいという点を丁寧に解説してくださいました。これによって、「技術としての信頼性がある」と確信するに至ったのです。

導入に至るまでのプロセスで、福宮さんをはじめとした関係者の方々が何度も現地を訪れてくださり、現場の状況に応じた設計変更や調整を提案していただきました。こうした丁寧なサポートも、私たちが最終的に地中熱空調システムを選んだ大きな要因の一つです。



補助金の活用で、イニシャルコストを削減
 
ーサーチェス®導入には高い初期コストがかかると伺いましたが、補助金の利用が重要だったと聞いています。一般的に補助金はどのような仕組みで活用されるのでしょうか?


福宮さん

サーチェス®の導入にあたって利用できる補助金には大きく分けて2種類あります

一つは、工場や倉庫などの施設を持つお客様が再生可能エネルギーの導入を促進するための、国や地方自治体が提供する「再生可能エネルギー補助金」です。これには、地中熱空調システムや太陽光発電の導入費用を一部負担する仕組みが含まれています。

もう一つは、企業の事業転換や新技術導入を支援する「事業再構築補助金」のような一般的な補助金です。この補助金は、必ずしもエネルギー関連に限定されず、企業が新しいビジネスモデルや技術を採用する際に利用されることが多いです。

倉沢社長
私たちの場合は、「事業再構築補助金」を活用しました。中小企業が持続可能な事業モデルにシフトすることを支援する意図で設計されているため、適用条件に合致しました。

もちろん、補助金を活用する際には膨大な申請書類や技術資料が必要になりますが、イノベックスのサポートが非常に助けになりました


ー具体的に、どのようなプロセスで補助金を申請されたのか教えてください。


倉沢社長

まず、私たちのプロジェクトが補助金の要件に適しているかどうかを確認しました。

この際、イノベックスから提供された技術資料が非常に重要でした。地中熱空調システムの詳細な性能データやシミュレーション結果を提出し、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル認定を目指すプロジェクトの一環であることを明確にしました。

補助金申請では、導入する機器やシステムの具体的なリストを提出する必要があります。例えば、ヒートポンプや配管、熱交換器といった設備の仕様や、予算内で実現可能なスケールを細かく計画しました。

福宮さん
私たちは技術的な資料や、国土交通省が提供するシミュレーションツールを活用して、補助金申請用のエネルギー効率データを作成しました。これにより、倉沢建設様が「事業再構築補助金」に適合するプロジェクトであることを証明しました。

倉沢社長
また、省エネ適合判定のプロセスでは、申請時の設備リストに記載されている内容と、実際に納品された機器の仕様がわずかに違っているだけでも修正が必要になります。

一度、ヒートポンプのラベルが納品時に変更されていたことで、再申請が必要になったケースがありました。この点では、イノベックスのサポートが非常に助けになりました


施工における設備選定・システム設計はイノベックスに丸投げ

 

ー施工のプロセスについて教えていただけますか?

倉沢社長
施工は非常にスムーズに進みました。

イノベックスのサポートが非常に手厚く、設計段階から現地調査、施工時の技術指導まで、細部にわたり協力していただきました。特に、システムの最適化や予算管理のためにヒートポンプの出力を調整するなど、柔軟な対応が印象的でした。

福宮さん
設備の選定やシステム設計は、地中熱の特性を十分に理解したうえで、建物の用途や設計に合わせたカスタマイズが重要です。

例えば、今回の倉沢建設様のプロジェクトでは、建物のエネルギー効率を最大化するためにヒートポンプの容量を慎重に調整しました。最初の設計では、30kWのヒートポンプを導入する計画でしたが、予算と運用効率を考慮し、最終的に10kWに変更しました。

 

サーチェス®が設置された地下室にある空調設備の制御盤


ー施工の際、苦労したポイントはありますか?

倉沢社長
ある空調設備が当社に納品された時、銘板が異なるものが届いたことがありました。理由を紐解いてみると、メーカーが買収された影響でラベルが変更されていたのが原因でした。

このような、一見細かい変更も補助金の申請に影響するため、申請内容の修正が必要になりますイノベックスさんが迅速に対応してくれたおかげで、遅延することなく申請することができました

福宮さん
そうですね。これはかなり珍しいケースですが、設備に関する変更があった場合、補助金の審査や技術認証に影響が出ることがあります。そのため、メーカーとの調整や必要書類の準備も迅速に行いました。これも私たちが一貫してプロジェクトに深く関わっていたからこそスムーズに対応できたことだと思います。

倉沢社長
地中熱技術という未知の領域に挑む中で、専門知識を持ったパートナーがいることで安心感がありました施工後も何か問題があれば対応してもらえる体制が整っているのは心強いですね。


「綺麗、静か、直接当たらない」空間の質が上がる地中熱の空調

 

ー導入後のコスト削減について、具体的な数字や成果を教えていただけますか?

倉沢社長
導入後、建物全体の年間エネルギー消費は従来比で約40%削減されました特に、冷暖房にかかる電力消費が大幅に減少しました。地中熱空調システムは、外気温に影響される空気熱源の空調とは異なり、真夏や真冬でも効率的にエネルギーを供給できます。その結果、ピーク時の電力使用量が抑えられ、月々の電力コストが安定しています

また、当社のモデルハウスは太陽光発電も導入しているため、地中熱空調システムで抑えたコストによって、余った電力を電力会社に売ることができています。

倉沢建設の『ZEB』モデルハウスの室内

 

福宮さん
地中熱の特性として、一度システムを設置すれば維持費が非常に低いのが特徴です。

例えば、空気熱源を使った場合、真夏や真冬の過酷な気温条件では室外機の効率が大幅に低下し、電気代が跳ね上がることがあります。一方、地中熱は年間を通じて安定した温度帯(15~18℃)を、設定した温度に温めたり冷やしたりするので、年間を通じて電力消費を最小化できるのです。

サーチェス®が設置された地下室にある、取り出した地中熱の温度を調整する機器


ー地中熱技術を活用した空調を利用することで、コスト以外で変化したことはありますか?

倉沢社長
空気の質という点では大きな変化がありました

外部から取り込む空気はフィルターを通して全館に循環するため、「ホコリや花粉が少ない純度の高い空気」を作れます。私自身、花粉症ですがアレルギー症状が軽くなっていると感じますね。

また、地中熱を利用した全館空調システムは、空気をゆっくりと循環させるため、強い風が直接当たることがなく「静か」で「肌に優しい」と感じます

室内の壁際に設置されたフィルターを通りながら、全館の空気が循環する

 

福宮さん
一般的な空気熱源のエアコンは、空気が乾燥しやすい傾向があります。一方で、地中熱を活用した全館空調は湿度のバランスを取りやすく、常に適度な湿度を維持します。そのため、冬場でも肌や喉の乾燥を感じにくいという利点があります。

また、風による空調に加えて、離れた物体間において赤外線を介して伝わる熱である輻射の性質も一部で活用しています。

天井に輻射パネルを設置することで、柔らかい空気の流れが発生し、体感温度をコントロールできる工夫を施しています。輻射パネルは、このような機能性と、すっきりとした見た目から高いインテリア性を兼ね備えており、空調効果と室内景観の両方に好影響を与えています

 

天井に設置されている、機能性とインテリア性を兼ね備えた輻射パネル

 

倉沢社長
実際に、この建物に来られたお客様からは「空気が軽い」「居心地がいい」といった感想をいただいています

福宮さん
また自然環境への負荷という点では、空気熱源を使用した場合、夏場や冬場に室外機から大量の排熱が放出されることで、ヒートアイランド現象を助長する可能性があります。

一方で、地中熱空調システムを活用する場合、排熱は地中にゆっくりと拡散され、地球温暖化への負荷を最小限に抑えられます

倉沢社長
このように、コスト削減、快適性向上、そして環境保護のすべてを同時に実現できるのがサーチェス®の魅力だと感じています。今回の導入は、私たちの会社の「次世代型の価値創造」を体現するプロジェクトになったと思います。


おわりに

 

倉沢社長
日本における地中熱空調システムの導入事例はまだ少ないですが、海外では急速に普及しています今後は国内の市場を広げるべく、私たち自身が成功事例として地中熱の普及に貢献したいと考えています。

大型の工場や倉庫といった企業施設は、空間が広いため冷暖房のエネルギー消費が膨大です。そのような施設に対し、地中熱空調システムは省エネ効果が一層際立つと思いますね。

福宮さん
地中熱の活用は持続可能な社会を実現するための重要な技術です。倉沢建設様のようなパートナー企業と連携しながら、地中熱空調システムの普及を進め、日本全体のエネルギー効率を向上させていきたいと考えています。